疲労と疲労感
サラリーマンの月曜病(ブルーマンデー症候群)という名前を聞いた方は多いと思います。休日明けの月曜日の朝になると体がだるくて、気分が沈み、会社に行く意欲が湧かない。こういう症状を月曜病と呼んでいるようです。
こういう人達の多くは土、日の休日の過ごし方に問題があります。「疲れた、疲れた」といって、休日の二日間をごろごろ寝ころんで過ごしていることが多いのです。
たしかに、疲れているのでしょう。 しかし、この「疲れ」は本当の「疲労」でしょうか。
「疲れた」、「だるい」と言って私のクリニックを訪れる方の90%以上が知能労働者の方です。一日の大半を、椅子に座ってキーボードを叩いたり、はんこ押したり、会議で発表したりといった作業や、苦手な上司や顧客にいやいや頭下げて過ごしているだけなのです。
営業活動で移動することもあるでしょうが、その際もたいていは車などを利用していて、自分の足で走り回わるわけではありません。
持つものはせいぜいボールペン。指先と目と耳と舌とお辞儀する時の腰と首の筋肉だけを集中的に動かしているだけです。
つまり、全身の筋肉を酷使した結果である本当の疲労状態ではないのです。それなのに、ご本人はまるでフルマラソンを走りぬいた後のように、全身が疲れたと感じていらっしゃいます。
こういう人達の「疲れ」は「疲労」ではなく、「疲労感」なのです。そしてこの疲労感は脳の錯覚によっておきてきます。
この疲労感を生む原因は、実際には身体を酷使する運動ではなく、神経系統、なかでも精神機能だけを酷使する「気疲れ」が大半であるにもかかわらず、脳は身体全体が疲れたと錯覚してしまうのです。
それでは、なぜ脳は精神的な疲労を身体の疲労と錯覚してしまうのでしょう。実は、この錯覚は脳に責任があるわけではないのです。私たち現代人、とくに都市に住み、知能労働をしている人達の生活のほうが異常なのです。
地球誕生は約46億年前。その地球に初めて生命体とよべるもの(菌類)が生まれたのが約38億年前。それから気の遠くなるような長い年月をかけて、突然変異や進化をくりかえしてやっと私達人類、ホモサピエンスが誕生したのは約20万年前と言われています。
地球誕生から現在までを1年のカレンダーに表しますと、生命体の誕生は3月ころ、11月になってやっと動物と植物が登場、私達人類はなんと12月31日、大晦日の午後7時頃になってやっと姿を現したのです。生物の進化には長い時間を要するのです。
そして、私たち人類はこの20万年の大半を狩猟、農耕によって生きてきました。言いかえれば、私達人間の身体は狩猟や農耕をする。また、その目的のために必要な道具を作り出すのに都合よくできているのです。
日の出とともに身体を使って働く。恐ろしい外敵に出会ったら、全力で逃げるか戦う。夜は安全なところにじっと身を潜めて、睡眠という状態に入る。
私達の身体は、脳やさまざまなホルモン系も含めて、そういう生活に適応するようにできているのです。
ところが、たかだか200年前におこった産業革命以降、私達のライフスタイルは急激に変化しました。しかもその変化は加速度的です。
今や、都市では太陽の動きなんかに関係なく、一日中いつでも動いていられます。そして、先ほどお話したように、身体をほとんど使わないで、神経系だけを使うようなライフスタイルになっている方が急激に増えたのです。
ところが20万年前にできあがった身体の仕組みは、たった数十年でそんな異様な使われ方に適応し、進化することは不可能です。糖尿病をはじめ、生活習慣病といわれている現代病は、身体の仕組みに合わない不自然な生活を無理やり強制されていることが大元の原因だと言えます。
脳にしたって、まさか身体をそんな風に使われるなんて想定してできていません。ですから脳は神経系だけの酷使を身体が疲れていると錯覚してしまうのです。
では、どうすればいいのでしょう。身体の仕組みに合った生活パターンに戻すことが根本解決です。みんなで第一次産業に転職しましょう。とはいっても、そんなことは現実的には不可能です。
個人的に今日からでもできる現実的な対応策は、仕事以外の時間を使って、なるべく身体本来の機能を使ってあげることだと思います。つまり、休日は普段使わない身体の筋肉をできるだけ動かすことが大切だと思います。
肉体労働をしていないのに「疲れた、疲れた」と思っている人ほど、身体は本当の疲労を必要としているのです。
休日はごろごろせずに、汗をびっしょりかくくらい、スポーツをしましょう。
肉体の本当の疲労は、頭の疲労感を軽くしてくれます。日曜日の晩、ぐっすりと眠って、爽やかな月曜日を迎えることが得策ではないでしょうか。