睡眠障害(その9)薬による治療
生活環境をいろいろと工夫・改善しても不眠がつづく場合には、いわゆる睡眠薬を飲むことになります。そしてお酒が睡眠薬としては好ましいものではないことは前回お話しました。
最近は医師の処方箋がなくても薬局で睡眠薬と称するお薬を買うことができるようになりました。ドリエルというお薬です。しかし、このドリエルという薬は本 来、抗ヒスタミン剤というグループの薬で、アレルギーによって起こる病気の治療薬なのです。副作用として眠気が強くて不評だったために、これを逆手にとっ て不眠症の治療薬として売り出しているのです。
このほかにも、不眠に効くと称する漢方薬も売っているようですが、私に言わせれば、そういった薬で眠れる程度の不眠であれば、前にお話したような生活習慣の改善で充分に眠れるようになるはずです。
日常生活に支障をきたすような頑固な不眠はやはり医師の適切な処方によってしか対処できません。さらに一般のお医者さんではなく、メンタル系の専門医への受診をお奨めします。なぜならば、不眠症だけが単独におこることは少ないからなのです。
眠れないという症状はとても容易にしかも素直に自分で感じとれる症状です。また、他の不調があっても、そういった不調は眠れないために起こった症状だと自分勝手に解釈される方がとても多いのです。
たとえば、やる気が湧かない、何をやるのも面倒だ、頭が重い、食欲がないといった昼間の症状があるにもかかわ らず、一般的には、そういった症状は睡眠が改善しさえすれば、自然によくなるものと考えられがちです。多分そう考えたいのでしょう。これはまったくまち がった考えです。
大半の不眠症は脳のいろいろな代謝障害の結果おきてくる症状の一部なのです。不眠という現象は種々の不調の原 因ではなく、結果の一部なのです。したがって、根本的な解決は不眠をきたすようになったおおもとを治療することにあります。強力な睡眠薬を飲んで不眠だけ を無理やりに改善しても、おおもとを治さなければ、昼間の不調はいっこうに治りませんし、睡眠だって睡眠薬を止めたとたんにまた元の木阿弥です。
一般医の先生の中には患者さんが「じつは最近眠れないから、いつもの血圧のお薬と一緒に眠れるようなお薬も出しておいてください」と頼まれると、「分かった、それじゃ軽い安定剤を出しておいてあげますよ」といって、安定剤という代物を処方される方がいらっしゃいます。
この安定剤という、まるで心のすべての悩みを解決して心穏やかにしてくれる、魔法の薬であるかのような錯覚を 抱かせる、名前の功罪についてはいずれお話したいと思います。この安定剤と称する薬の実態をみると、正式には抗不安薬というグループの薬であることが少な くありません。
抗不安薬は不安、緊張、焦燥感などを軽くする薬です。たしかに不安、緊張、焦燥感が軽くなれば眠りやすくなることは間違いありません。しかし、これも厳密にいうならば、ドリエルと同じように抗不安薬の本来の使用目的ではない副作用を利用しているといえます。
もちろん一般医の先生が出す「安定剤」の中には本当の睡眠導入薬も使われています。最近は一般医の先生も積極的に睡眠導入薬を処方されることのほうが多くなってきたようです。
現在発売されている睡眠導入薬は昔の睡眠薬と違って、きわめて安全で効き目もはっきりしています。どんな原因の不眠だって、量さえ増やせば一応はそれなりに眠らせてくれます。しかしこれが大きな問題です。
さきほどもお話したように、不眠は原因ではなく、結果の一部ですから、眠れるようになればよいというわけではありません。おおもとの原因となっている問題を治療しなければ本当の解決にはなりません。
しかも不眠にだけ限って言ったとしても、いろいろなタイプの不眠があり、それぞれのタイプに合った薬を使わなければ快適な眠りは得られません。
コンビニに行けば、とりあえず必要な者は手に入ります。でも、本当に美味しい物、自分に合った者を手に入れよ うと思ったら、やはり専門店に行かなければならないんじゃないですか。魚は魚屋さん、野菜は八百屋さんで買うのが一番だと思います。病気になった時にも同 じじゃないでしょうか。
ところで、K前首相とT前大臣のありがたい経済再生政策のおかげで、我が国の経済は立ち直り、政府はいざなぎ景気を超える好景気が続くと自画自賛しています。本当でしょうか。汗水たらして働いている一般の人にはまったくその実感がないのじゃないでしょうか。
一部の大企業という肌のぬくもりを感じない組織と、博打まがいのマネーゲームでたまたま運よく勝った人たちだけに富が集中し、社会の現場で生きている一般市民には好景気と称するもののおこぼれは一切まわってきていません。
私のクリニックのある町でもここ数年、商店が次から次に潰れてマンションに変わってしまいました。あるのはコンビニと美容院ばかり。もはや商店街とは呼べない状態になってしまいました。
元気な魚屋さん、八百屋さん、酒屋さん、豆腐屋さんたちの立ち並ぶ、活気ある商店街にはもう戻れないのでしょうか。